私は典型的な80年代生まれの一人っ子として、都内の集合住宅で育ちました。両親共働きで、小さい頃から「仕事をする女性」というのが当たり前の環境でした。特に母は、一流企業で管理職として活躍していて、私の中での「大人の女性」のロールモデルでした。
幼い頃から、よく母に「結婚は絶対じゃないのよ」と言われて育ちました。祖母世代の「女性は結婚して一家の主婦になるべき」という価値観に反発していた母は、私にはとにかく「自立」を説きました。「結婚は人生の選択肢の一つに過ぎない。自分の人生は自分で決めなさい」という言葉を、繰り返し聞かされて育ちました。
学生時代、私は勉強に打ち込みました。成績は常にクラスの上位で、先生からは「将来有望」と期待されていました。友達が少女漫画を読んで「王子様との恋愛」を夢見ている中、私は塾や習い事に精を出していました。「恋愛より勉強」というのは、半分は母の影響で、半分は本当に自分がそう思っていたからです。
大学は難関私立の経済学部に進学。素晴らしい教授陣との出会いもあり、経済や金融の世界にどんどん魅力を感じていきました。就職活動では、外資系金融機関から内定をもらい、晴れて金融の世界に足を踏み入れることになりました。
仕事は想像以上に面白く、やりがいがありました。企業の財務分析や投資判断、新規プロジェクトの立ち上げなど、毎日が刺激的でした。残業も多く、休日出勤も当たり前。でも、それも苦にならなかった。むしろ、仕事に打ち込める環境が心地よかったんです。
周りの女性社員が次々と結婚していく中、私は「仕事人間」として突き進んでいました。30歳を過ぎても、結婚願望は全くありませんでした。むしろ、結婚して仕事のペースが乱れることを恐れていたかもしれません。親からの結婚のプレッシャーもなく、このまま独身でいても全然構わないと思っていました。
休日は、好きな美術館巡りや、友人とのカフェ巡り、ヨガなど、自分の興味のあることに時間を使えることが何よりも幸せでした。誰にも気兼ねなく、自分のペースで生活できる。そんな日々が私には心地よかったんです。
転機は36歳の時に訪れました。取引先の企業との打ち合わせで、今の主人と出会ったんです。最初は純粋にビジネスパートナーとしての付き合いでした。彼は私より2歳年上で、同じように仕事一筋の生活を送っていました。
仕事の話をする中で、価値観が近いことに気づきました。でも、お互い恋愛や結婚には興味がないタイプ。だからこそ、気負いのない関係が続いたのかもしれません。仕事の後で食事に行ったり、休日に美術館に行ったり。いつの間にか、自然と時間を共有するようになっていました。
彼との時間は、不思議と心地よかった。押しつけがましくなく、でも必要な時はしっかりと支えてくれる。仕事の話も趣味の話も、同じ目線で語り合える。そんな関係性が、少しずつ私の中の「結婚」に対する考えを変えていきました。
プロポーズは、美術館のカフェでさりげなく。「このまま一緒にいない?」というような、私たちらしい言葉でした。特別なイベントでもなく、派手なリングもなく。でも、その言葉に「うん」と答えた時、不思議と胸が温かくなりました。
38歳での結婚。会社の同僚からは「えっ!?」という驚きの声が。いつも「結婚しない」と言っていた私が結婚するなんて、誰も予想していなかったようです。
結婚後も、お互い仕事は続けました。共働きならではの大変さはありましたが、二人で分担しながら生活を築いていきました。39歳で妊娠が分かった時は、正直不安でいっぱいでした。仕事との両立、年齢的なリスク、育児への自信のなさ。でも、主人の「一緒に頑張ろう」という言葉に、少し勇気をもらえました。
40歳で出産。仕事と育児の両立は想像以上に大変でした。保育園の送り迎え、家事、仕事、育児。毎日があっという間に過ぎていきます。疲れ果てて、涙を流すこともありました。でも、娘の成長を見守れることは、何物にも代えがたい喜びです。
今、46歳。6歳になる娘は活発で好奇心旺盛。毎日新しい発見を教えてくれます。「おかあさんみたいに、かっこいい女性になりたい!」と言われた時は、思わず涙が出そうになりました。
振り返ってみると、結婚願望がなかった私が、今では家族との生活を心から楽しんでいます。仕事も以前と変わらず続けていますが、見方が少し変わりました。以前は仕事がすべてでしたが、今は「家族との時間」という新しい喜びを知りました。
これは決して「女性は結婚すべき」という価値観に変わったわけではありません。ただ、人生には予想もしない幸せの形があるのだと気づかされました。結婚願望がない人を否定するつもりもないし、むしろ理解できます。でも、私の場合は、思いがけず見つけた新しい人生の形が、自分に合っていたんです。
今では、娘の運動会で一生懸命応援したり、家族で休日に公園でピクニックをしたり。そんな何気ない日常の中に、かけがえのない幸せを感じています。仕事で忙しい日々は変わりませんが、帰る場所があること、待っていてくれる人がいることが、新しい原動力になっています。
そして今、40代後半を迎え、新たな挑戦も始めています。仕事ではマネジメント職として若手の育成にも携わるようになり、家庭では小学生になる娘の成長をサポートしながら、自分自身の新しい可能性も探っています。結婚願望がなかった私の人生は、思いがけない選択によって、より豊かなものになったのかもしれません。
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